「障がい者雇用を進めたいけれど、うまく導入できない」「障がい者雇用をしないとどうなるの?」と疑問を抱いている方はいませんか?実際に調べてみても、障がい者雇用をどう活用するべきかわからないですよね。
そこでこの記事では、障がい者雇用のメリット・デメリットを紹介します。助成金についても解説するので、障がい者雇用を検討しなければいけないと悩む担当者はぜひ参考にしてみてください。
障がい者雇用とは?
障がい者雇用とは「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づいて、障がい者でも安定して働けるように作られた制度のことです。対象となるのは、身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者・そのほか発達障碍者や難治性疾患患者です。
実際に、障がい者の実雇用率は20年連続で増え続けています。
引用:厚生労働省「障害者雇用のご案内 ~共に働くを当たり前に~」
障がい者の雇用に関しては、以下の記事でも解説しています。
障がい者雇用は義務づけられている
障がい者雇用は、義務付けられています。すべての事業主は以下の決められた法定雇用率以上の障がい者を雇用する決まりがあります。現在の民間企業の法定雇用率は2.5%です。
例えば、200名の常時雇用する労働者が働いている企業の場合、5人以上の障がい者を雇用する義務が発生します。法定雇用率は令和8年7月からは、2.7%と引き上げられます。障がい者雇用に対応しない場合、納付金を収めたり、企業名が公表されてしまったりするため、注意が必要です。
企業が障がい者雇用をするメリット
企業が障がい者を雇用するメリットは、以下の6つです。
- 労働力の確保ができる
- 生産性が向上する
- 共生社会作りに寄与できる
- 職場環境をより良いものにできる
- 障がい者に対する理解が深まる
- 助成金が受けられる
障がい者雇用はメリットがあるのか気になっている場合は、参考にしてみてください。
労働力の確保ができる
障がい者雇用を実施することで、労働力の確保ができます。障がいのある方一人ひとりにあわせた業務を任せれば、企業に欠かせない労働力になります。
例えば、障がいのある方の
- できること
- できないこと
- 配慮してほしいこと
などを調査して実際の業務の切り出しに活かせば、特性を活かした人員配置ができます。障がいのある方は、会社の戦力として欠かせない存在になれる可能性を秘めているのです。
生産性が向上する
障がい者雇用の活用で、生産性が向上する可能性があります。障がいのある方の受け入れをするためには、働きやすいように業務の流れや備品の配置などの見直しが必要になります。障がいのある方が働きやすい環境を作ることで、健常者社員も作業しやすくなるため結果的に生産性の向上が見込めるでしょう。
また一生懸命働く障がい者の方を見て、健常者のモチベーションアップにつながることもあります。障がいのある方・健常者関係なく高め合える環境が作れるため、作業効率がアップし、生産性が向上するでしょう。
共生社会作りに寄与できる
共生社会作りに寄与できることも、障がい者雇用をするメリットです。障がい者雇用の根底にあるのは、共生社会です。障がいの有無関係なく、誰でも参加できる社会にするという目的があります。
障がい者雇用で、誰もが生きやすい社会に変化するための働きかけが可能です。
職場環境をより良いものにできる
障がい者雇用は職場環境の改善にも役立ちます。障がい者雇用を始めようとすると、誰もが安心安全に働ける環境作りが可能です。初めは障がいのある方向けにしていた環境も使っていくうちに、健常者の社員も働きやすい職場になったという例もあります。
さらに、健常者社員が実施していた作業を障がいのある方に切り出せば、業務負担軽減にもつながります。障がい者雇用で職場を変えて皆が働きやすい環境が作れるでしょう。
障がい者に対する理解が深まる
障がい者雇用をすることで、健常者の障がいのある方に対する理解が深まります。これまでは「できない」と決めつけてしまっていた業務も特性を理解して、障がいのある方でも工夫をすればできるとわかってもらえれば、周りが「〇〇をすればできるかもしれない」という考え方に変化していきます。
健常者からの障がい者に対するイメージや偏見を変えることにもつながるため、企業の多様性の推進に寄与します。
助成金が受けられる
障がい者雇用をすることで、助成金が受けられます。例えば障がいのある方を雇用した場合は「特定求職者雇用開発助成金」の利用が可能です。試しに雇用した場合は「トライアル雇用助成金」を受けられます。
ほかにも助成金や制度の支援はさまざまあります。助成金については「障がい者雇用に利用できる国の助成金」で解説しているので、チェックしてみてください。
障がい者雇用を進めないと起こるリスク
障がい者雇用を進めないと起こりうるリスクもあります。主に以下の2つです。
- 納付金を納める必要がある
- 企業名が公開される可能性がある
それぞれ解説します。
納付金を納める必要がある
障害者雇用納付金制度とは、障がい者の雇用に対して事業主が社会連帯責任を果たすために給付金の支給と納付金の徴収をする制度です。法定雇用率を満たしていない場合、障害者雇用納付金制度に基づいて、一人不足あたり月額5万円納める必要があります。
ただし、納付金の徴収は従業員数が100人越ている事業主に限ります。100人未満の企業の場合は、未達成でも納付金の徴収はありません。
企業名が公開される可能性がある
障がい者雇用が進められておらず、障害者雇入れ計画の適正実施勧告をしても改善がみられない企業については会社名が公表されます。公表されてしまうと、企業のイメージダウンにつながってしまいます。さらに、株価にまで影響がおよぶことも。
公表されてしまうと顧客に悪い印象を与えてしまうため、障がい者雇用を着実に進めていく必要があります。
企業が障がい者雇用を進めるうえでの課題
企業にとって、障がい者雇用を進めるのは容易ではありません。ここからは、よくある課題5つを紹介します。
- 業務の切り出し方がわからない
- どのようなサポートが必要なのかわからない
- 採用するべき人材がわからない
- なかなか定着してもらえない
- 社内理解が進まない
障がい者雇用について課題を感じている場合は、参考にしてみてください。
業務の切り出し方がわからない
障がい者雇用をいざ始めようと思っても、うまく業務を切り出せないと悩む担当者は多いです。一見、障がいのある方には難しい業務だとしても、細かく細分化すればできることが見えてきます。
障がいがあってもできる業務を洗い出したら、雇用した人の特性と比較して、無理なく働けるか検討していきましょう。まずは細かく業務を洗い出すことが大切です。
どのようなサポートが必要なのかわからない
どのようなサポートが必要かわからない場合は、支援機関と連携するのがおすすめです。障がい者自身から得られる情報だけでは、サポートするのに限界があります。
医療機関や家族などと連携して、本人の状態・特性について情報を収集しましょう。話を聞いていく中で、どういったサポートが必要なのか見えてきます。
採用するべき人材がわからない
採用するべき人材がわからないときは、業務を洗い出してそこに合う人物像を作っていきましょう。人物像を作れたら、面接をしていきます。
面接では就労の意欲や心身の健康状態、勤務できる体力があるかどうかなどをチェックしてください。障がいの種類によっても面接の対応方法が異なるため注意が必要です。
なかなか定着してもらえない
なかなか定着してもらえないことも、担当者のよくある悩みです。離職理由はさまざまで、労働条件・賃金への不満や人間関係、仕事内容が合わないなどです。
定着をさせるためには、一人ひとりと向き合って積極的に声かけをしましょう。さらに、定期的な面談をして本人の仕事へのモチベーションや体調を聞く時間を作ってください。
社内理解が進まない
社内理解は、従業員一人ひとりに任せているだけでは進みません。研修を実施したり、社内報を利用して周知したりしましょう。障がい者雇用を進めるための資料を配布している機関もあります。
例えば、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、障がい者マニュアルの配布やDVDの貸出、リーフレットの作成などをしています。配布されている資料などを活用しながら、社内理解を進めていきましょう。
障がい者雇用に利用できる国の助成金
障がい者雇用に利用できる国の助成金は、以下の通りです。
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金
- 障害者雇用納付金関係助成金
- キャリアアップ助成金
助成金の特徴など、それぞれ解説していきます。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、障がい者を雇入れた際に活用できます。以下の2種類のコースがあります。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
高年齢者や障がいを持っている就職困難者をハローワークなどでの紹介で雇用した際に、助成金をもらえます。助成金は条件によりますが、最大240万円支給されます。
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースは、発達障がい者や難病患者をハローワークなどの紹介により、雇用した際に利用できます。助成金の金額は条件によって異なり、最大120万円が支給されます。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金には、以下の2種類あります。
- 障害者トライアルコース
- 障害者短時間トライアルコース
障害者トライアルコースは、試験的に障がい者を雇用した際に受けられるものです。雇用する場合は、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの人材紹介が必要になる点に注意しましょう。対象労働者を雇用した場合、最大4万円。精神障がい者の場合は、月額最大8万円が支給されます。
障害者短時間トライアルコースは、週20時間以上の勤務が難しい精神障がい者・発達障害者を20時間以上の勤務を目指して雇用を実施する事業者に向けた助成金です。対象者1人につき月額最大4万円が支給されます。
障害者雇用納付金関係助成金
障害者雇用納付金関係助成金は、事業主が障がい者を雇用するにあたって施設・設備の調整などを実施した際に支給されます。助成金の種類は、以下の通りです。
- 障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金
- 障害者介助等助成金
- 重度障害者等通勤対策助成金
- 重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
- 職場適応援助者助成金
- 障害者雇用相談援助助成金
- 障害者能力開発助成金
- 障害者職場実習等支援事業
それぞれ受給する条件などが異なるため、よく調べて検討しましょう。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金には、障がい者正社員化コースがあります。障がい者正社員化コースは、障がい者の雇用と職場定着化を図るためのものです。金額は対象者や措置内容によって異なり、最大120万円受給できます。
まとめ
障がい者雇用とは、障がい者でも安定して働けるように作られた制度のことです。障がい者雇用には、以下の6つのメリットがあります。
- 労働力の確保ができる
- 生産性が向上する
- 共生社会作りに寄与できる
- 職場環境をより良いものにできる
- 障がい者に対する理解が深まる
- 助成金が受けられる
障がい者雇用を推進しない場合、納付金を納める必要があったり、企業名が公開されるリスクがあったりするため注意してください。助成金制度もあるため、うまく活用しながら障がい者雇用を進めていきましょう。
【参考】
- 厚生労働省「障害者雇用のご案内 ~共に働くを当たり前に~」
- 厚生労働省「障害者雇用のすすめ ~障害者雇用に取り組まれる事業主の皆さまへ~」
- 厚生労働省「障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象」
- 厚生労働省「障害のある方が、できるだけ早く職場に適応し、安心して能力を発揮するためには、適切なサポートが大切です。「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援」を活用しましょう!!」
- 公益社団法人 全国求人情報協会「全求協障がい者雇用ハンドブック」
- 厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」
- 二見武志 、【改訂版】障がい者雇用の教科書 人事が知るべき5つのステップ、太陽出版、2020年
- 眞保 智子、4訂版 障害者雇用の実務と就労支援~「合理的配慮」のアプローチ、日本法令、2024年